那羅延天(梵名:Narayana ナーラーヤナ)
この尊像は那羅延天(ならえんてん)です。
青黒色で羅刹形、左手は拳にして腰におき、右手は八輻を持って胸に当てて蓮葉に乗ります。
外金剛二十天の一尊像で、東方に位置しています。
五類天の中では三界主の一尊像です。
五類天は、外金剛部つまり金剛界曼荼羅外周の東西南北に配置される二十天を五種類に分類したもので、金剛頂経系の独自な分類です。
『金剛頂経』第10巻では、まず大自在天を挙げ、以下の二十天を三界主、飛行天、虚空天、地居天、水居天の五類としています。
これらの諸天を曼荼羅に引入して、灌頂し、仏教に入る以前の名前・性格に因んだ名前を「金剛灌頂名」として授与し、印・真言を教えます。
その灌頂名と本図典の番号を次に示します。
五類天の第一の三界主は58那羅延天、59倶摩羅天、61梵天、62帝釈天の四尊、これらの諸天は忿怒明王の位の曼荼羅では東方に位置します。
飛行天は63甘露軍荼利、64月天、66大勝杖、67金剛氷誐羅の四尊で、これらの諸天は金剛忿怒の位で南方に位置します。
虚空天は、60末度末多(まどまた)、65作甘露(さかんろ)、70最勝、75持勝の四尊で、これらの諸天は誐拏主、集団の長の位で、それぞれ東西南北に位置します。
地居天は68守蔵、69風天、71火天、72倶尾羅の四尊で、これらの諸天は努多主つまり使者の長の位で、西方に位置します。
地下天は73嚩囉賀(ばらか)、74焔摩、76必哩體火祖犁葛(ひつりていかそりか)、77水天の四尊で、これらの諸天は際吒迦(さいたか)つまり従者の位で、北方に位置します。
経文では第一に大自在天の名を挙げていますが、大自在天はこれらの二十天には数えられていないません。
大自在天の行方については不動明王に変容したと推測するのも一つであります。
手にもつ八輻輪は古代インドの武器です。
那羅延天が四本の手に持つ棍棒、円輪、法螺貝、蓮華の一つです。
掌を伏せて三度旋回するのは、那羅延天が乗り物である 金翅鳥(こんじちょう)に乗って空中を行くことを表します。
『大日経疏』が那羅延天は強大な力を持つので、十九執金剛の一に数えています。
那羅延天はヒンドゥー教の最高神・ヴィシュヌを指します。
ナーラーヤナは「原初の水の子」を意味し、ヴィシュヌの異名でもあります。
神話ではヴィシュヌは輪、棒、法螺貝を武器といて悪敵を退治し、蓮華は慈愛を表し信徒を救済します。
その肌の色は青黒色です。
ヴィシュヌ神は正義が廃れて末法の世になると、化身として人間界に現れます。
化身は幻(マーヤー)という不思議な力を具え、その不思議な幻力を用いて神秘の世界に近付こうとする人間を欺きます。
合掌