二張の和傘 3
私はしばらくお店の前で今までのいきさつを思い出し
ながら懐かしんでいました。
思いにふけっていると一瞬、時代劇の一幕をみてるよ
うな、錯覚にとらわれ 私の目の前に真っ赤な和傘が二
つ並んで目の前に現れました。
御二人とも着物姿がなんともいえず上品で、歩く姿を
しばし見入っていました。
御婦人方は歩くことに少し難儀していたご様子、それ
でもご夫婦そろって仲睦まじい様子が窺がえました。
それにしても年齢がさっぱりわからない、かなり年を
召しておられるのだと思いますが、とても表情が若々
しくまた色気を感じました。
こういう人もいるんだなあと、他人事のように思って
いましたが、その後ろから、骨董屋さんの彼がひょっ
こり現れました。
私の視界には彼が以前から入っていたはずですが、し
ばらく気づくのに時間がかかりました。
紹介したいというお客さんは和傘のお二方だと感じま
したが私は圧倒されているので、気持ちが戸惑ってい
ました。
和傘の旦那様はにっこりと明るい表情で「ようやく会
えました」と簡単なご挨拶をした瞬間、私は少し気分
が楽になり、外ではなんですからと、お店に入りまし
た。
席に到着しワインが注がれると「それでは」と軽くグ
ラスを持ち上げ、軽く頭を会釈してお食事が始まりま
したが、いつも私が乾杯をする行為と違うなと少し戸
惑いを感じました。
後で知りましたが、一般的にはグラス同志、軽くたた
いて乾杯がはじまりますが 、あまりそういう行為がお
好きでないご様子、どちらが上品に見えるか、いちど
お試しあれ。
私もその一件以来、知人と乾杯をするとき、合わせる
のが大変です。
御食事中、骨董屋の彼と御主人が中心となってお話を
されていましたが、ものに対するこだわりが尋常では
ないのがお話の中から伺い知ることができました。
事前に何か修理を頼みたいと彼を通じて伺っていました
が特にその話もなく、御婦人方はその旦那さんを引き立
てるような形で、ほとんど喋ることはありませんでした。
私はお二人の立居振舞いを見ているだけでそれでおなか
がいっぱいになりお食事の内容が思い出せずにいます。
お店から出ると、自宅がお近くのようで「良かったら寄
って行ってください」と おっしゃっていただきましたの
で御自宅に伺うことにしました。
御婦人方は歩きにくいご様子5分以上ほどかけてゆっくり
と到着しました。
残念ながら小雨はすでに止んでいて、和傘を差したお姿を
拝見するのはこれが最後となります。