二張の和傘4
表通りから細い路地に入るとおよそ10件ほど向かい
合わせて民家が建ち並んでいます。
町屋は少なく、立て替えた家が半数以上はあったと思
います。
表通りから入っていくと二件目にその方の自宅があり
ました。
大きな屋敷に住んでいるのではなく、こじんまりとし
た家で外観は、その家だ け1畳半ほどある花壇に一本、
中くらいの椿が植えてあり、冬支度の葵や 研草などそ
の他3種類ほど植物がバランスよく配置されていました。
どこに入っていたのかわからない上品なキーホルダーを
ご主人の着物からり出し、 とても分厚いヨーロッパ製の
木の扉をご主人が空けると小さな玄関が現れました。
小さな空間でしたが古い中国の五本指の龍の瓦が一枚、
その前に小さなお花が 活けてありその横の扉を開けると
全体的にヨーロッパの調度品で、配置され 小さく細長い
ガラスケースの中には、ヨーロッパのアンティークカッ
プ、から アジア、日本の陶磁器、やグラスなど、実に様
々なお国の実用品がバランスよく 配置されており、私は
しばし、古い銀器のスプーンの細かな細工を、見いって
いました。
二階に上がると、打って変わって、畳のお部屋、広い床の
間には、江戸中期に活躍 した狩野古信の 小さな画が配置
されておりました。
掘り炬燵のある小さなテーブルの天板には根来塗りで誂え
られているので、それが和室の 空間のアクセントの役割も
果たしているようにみえます。
私たちは根来のテーブルに座り、しばらくすると御婦人方
がゆっくりと慎重に 階段を上がってきているのがわかりま
したが、足が少し難儀していたようだったので、 上がるの
にとても時間がかかっていたように感じました。
小さな御盆にバランス良く配置された三人分のお茶を持っ
てこられました。
三人分のお茶がちょうど入る大きさの使い込まれた上品な
漆塗りの御盆をゆっくりと畳の 上に置き一人ずつゆっくり
とお茶を配っていかれ、その間ふすまを開 ける仕草やお茶
の持ち運び方、あまりしゃべらない方でしたが、
並の人ではないような雰囲気を漂わせておりました。
なんというか、われわれが同じような動作をすることは簡単
かもしれませんが、何か違う。
色絵の古伊万里に入った煎茶を頂き、三人でしばらくゆっく
りとした時間の流れ を共有しながら、 ご主人の明るい語り口
の中から特に書の道具に関して非常に強 いこだわりが談笑の
なか感じました。
私は20代に入ったころからいつかは自分の宝となるような
硯、抹茶椀を ほしいと思っておりましたが、懐具合と相談し
ながら手に入れるにはまだ至っ ていませんでした。
硯に関しては中国の古端渓が、抹茶椀に関しては、古い朝鮮
系の御椀、もしくは古萩が良いと 漠然と考えていました。
そのような物を手に入れるのは難しいというのは重々承知の
上ですが、10年ほどゆっくりと探しもと めていければいつ
かは手に入るのではと悠長にかまえておりました。