仏像や仏具などに金箔を張る仕事を箔押しといいます。
普通の生活をしていると箔押しという仕事を間近で見る機会は滅多にないと思います。
私たちがよく目にするお寺で奉られている古い金箔の仏像は時代の経過とともに、金箔が所々剥がれて、時代を感じさせますが新造当初は剥がれていないので金箔でピカピカでした。
下地の漆は黒色、もしくは数は少ないですが、朱色の下地です。
少しでも剥がれると下地の色が剥がれた部分から見えますが、それが逆にありがたい気持ちになるのも不思議なものです。
新造の仏像でも、あえて箔を擦って下地を覗かせて時代付けをすることもあります。
しかし実際に箔押しされている仕事を見ると擦るなんて事はとてもじゃないけど出来なくなります。
四角い金箔を張り合わせている箇所が目立たないように隣同士丁寧に張り合わせます。
1ミリ程の点のような張り残しがあれば、その5倍程の大きさの箔を上から被せて目立たなくさせます。
仏像の肌にあたる所と袈裟などの衣の表現ではやり方を変えています。
肌には粉溜地(ふんだめじ)という金箔の上から金粉を蒔いてピカッと光る箔の輝きを落ち着かせています。
一見してみるとわかりにくいのですが、肌と衣のちょっとした金色の差が見えると思います。
些細なことですが、そういうちょっとした工夫で自然な雰囲気を演出しているのだと思います。
そしてさらにわかりにくいと思いますが、この金箔像は二重に箔をはり合わせています。
金箔をはった上からもう一枚、金箔を重ねているのですが、なぜ二重にする必要があるのかというと、一枚だけだと、金箔が下地の色をわずかに通します。
しかし箔を二重にする事で下地の色は完璧にシャットダウンします。
二重に箔を押された像はその中身も純金でできているのではないのだろうかと思ってしまうぐらい、金の色がとても上品です。
金箔像は保存という観点から考えても優れていて、中の下地の漆はとても丈夫なのですが、紫外線には弱いところがあります。
しかし金箔が施されている事により紫外線が遮断されるので、中の漆が守られ大切に保管していると1000年以上は持つという事は皆さんの目でも実証されていると思います。
さて、これからは私の個人的な意見なのですが、皆さんはどのぐらいの仕上がりが一番理想的だろうかと思いますでしょうか。
仕上がりというのは下地である漆の形状に左右されるのですが、技術の進歩が時代とともに進み下地の仕上がりがどんどんと細かく完璧にフラットに仕上げられるようになってきました。
下地の漆を完璧に仕上げると、中身が木彫の像だという事は想像しにくくなります。
技術の発展途上の段階では、その当時では完璧に仕上げたものでも、木彫のでこぼこの跡が若干のこっていてそれが下地に反映されたりします。
金箔を作るにあたっても今では箔の厚みが極限まで薄く伸ばせますが、機械がない昔は手で薄く伸ばしていたので、薄くするにも限界がありました。
厚い金箔をやや木彫感の残る仏像の下地に箔を押すとどのようになるか、一度試してみたいところではあありますが機械的な雰囲気は多少なくなると思います。
しかし、職人さんにも意地がありプライドがあります。
そういったところでなかなか難しいところがありますが、しかしそのようなプライドが日本の物作りのクオリティーを引き上げ、そして下町の何気ない小さな工場が実は世界一の技術を持っていたという事も日本ではよくある話でその根本的なものを支えているのはそれぞれの職人さんの意地やプライドかもしれません。
それでもやっぱり、発展途上の段階を一度試してみたいと思ってしまいます。
合掌