二張の和傘 2
私は当時も今も変わらないのですが、どこへ行くにも
市内は自転車で移動します。
移動といっても距離に限りはありますが、東は山科、
西は天神川あたりまででしょうか、それでも直線距離
にして10㎞はないと思います。
それで、通勤中もよく自転車を利用していました。
仕事が少し早く終わりいつものように 帰り道を走って
いました。
その日は川端二条をまっすぐ西へ走っていたのですが
まだ閉店していない骨董屋さんが目に入り、足は自然
とお店のほうに向いていました。
おそらくお客さんが長居をしていたので、まだお店を
閉める事が出来なかったのだと思いますがす。
ビルの一階、ガラスの扉を開けて店内に入るとお客さ
んが備前焼の花入れを購入するかどうか思案している
最中でした。
購入されたのかどうかは、もう忘れてしまいましたが、
そのお客さんが出て行かれた後、私と店員さんの二人
になりました。
お店の方は後で知ったのですが、私より一つ歳が若く、
私が見てきた、骨董屋で一番の最年少の店員さんでし
た。
私は一人、店内を物色していたのですが、お店の方も
早く帰 りたいだろうし、気前よく大きな買い物をして
あげる ような身分でもありませんが、相手も見た目が
若い感 じの店員さんで、そのせいか話しかけやすく正
直に「実は私用で素晴らしい傷物を探していて、それ
を直 して使いたいので、いろいろと探し回っているの
です 変なことを聞いてすいません」という旨お伝えし
まし た。
すると、店員さんは何か心当たりがあるような顔をし
て「少し待っていてください」と奥から何点か持っ て
きました。
いずれも作家さんの作で骨董品ではありませんが、煎
茶用の急須に呉須(青い絵)の小皿など、いずれも骨
董とまではいきませんが、数点まとめて500円で即
購入することになりました。
お店の人からしてみれば処分に困っていたぐらいなの
で都合がよかったようですが、私もそのおかげで金継
の練習としても非常によい材料でした。
そういうことがいきさつで、その店員さんに事後報告
のような形で、何度かお店に遊びに行ってました。
彼も私も年齢が一つしか違わないので、気軽に伺って
は骨董の見方や偽物についての面白いエピソードを私
に話してくれました。
彼は、器を育てるために、自分の愛用の器を中国茶や
煎茶など並々と注いで、飲んでいるため、私が遊びに
伺っても並々と注がれたお茶が出てくる、しかも時に
は抹茶椀で出してくれるのでお腹がお茶で一杯になり
ます。
また、晩飯を一緒にすると、鞄の中から今日はこれで
飲みましょうとプチプチ(エアキャップ)に梱包され
ていた古い盃を丁寧に広げていくのでした。
いつも同じものではないのですが、最も古いものでは
800年ぐらい経過した高麗時代の器や中国清朝、明
、宋など彼が持ってきた器だけで中国の歴代皇帝が即
位していた時代を並べられるのではなかろうかと想像
を掻き立てられるのですが、なぜ彼はそれらを持ち歩
いているのかというと、古い器はかせてくるのですが、
それは、長年水分が器に入っていないので乾燥して艶
がなくなり色あせた状態になっています。
それが日本酒を入れてあげることで潤い少しずつ艶が
戻ってきます。
長時間、日本酒に浸しておけばと思いますが、こまめ
に使うことで器が上品に仕上がっていくそうです。
一度や二度で仕上がるものではないので、それこそ毎
日使ってあげて気が付いたら良い具合に仕上がってい
るのが理想です。
器のためにお茶やお酒を飲んでいるような気持ちにな
りますが私も好きなので酒の肴にではなく器を肴に話
に花が咲きます。
因みに盃に艶を戻す飲み物としては水よりも日本酒が
一番良いのだそうです。
私は何度か彼の器を金直ししたことがあるのですが、
彼のお知り合いの方で、普段の日常品を厳選して使わ
れている方がいてその方が私に会いたいという旨お話
を頂きました。
私は面白そうだと思い、快く引き受けましたが、3人
の都合のよい日程がつかずそれから半年ほど経過して
あの夕刻のフランス料理屋さんの前で待ち合わせをす
ることになりました。
続く