木彫、大工、宮大工などが使う鑿(のみ)や彫刻刀のような刃物には砥石は必需品です。
すでに私が生まれる前に特殊研磨機が登場し、また天然砥石の代わりに人造の砥石も登場した
りして、天然砥石の出番が少しずつ少なくなってはいるものの、それでも天然砥石には人々を
惹きつける何かがあります。
京都高雄周辺で採掘されている天然砥石はもともと放散虫という極微細な化石が海底でゆっくり
と体積して2億年ほどの歳月をかけて、今の砥石の形になりました。
極微細な放散虫ですが、拡大していくと重力の関係で下のほうが重く大きくなるので、必然的
に鋭いほうが上に向きます。
すると、その鋭く尖ったほうがすべて上を向いている状態の面ができます。
人造砥石のように人の手で作られた砥石は陶磁器のように焼しめて作られますので天然砥石の
ように粒子のとがった部分が上に向いていないという違いがあります。
しかしながら人造砥石も研究に研究が重ねられ天然砥石の欠点を補う形で、粒子の大きさを指
定したり、材質の均一化であったり人造も大変重宝されています。
天然砥石は長切れするといわれていますが、天然砥石で研ぐと放散虫の鋭利な部分の面でで研ぐ
ことになります。
鋭利な部分で研ぐという事は非常に細かいぎざぎざが刃先に残り、それがのこぎりのような役割
を果たしているとも言われています。
もちろん目視することができない超微細な世界の話です。
しかしながら私が天然砥石に魅せられたのは使っていて心地が良いからですが、それは道具とし
美しいという事があります。
どんな道具にも言えることだと思いますが、実用的で美しい道具は使いやすさだけでなく、作業
のモチベーションを上げてくれます。
モチベーションが上がると良いものを作りたいという気持ちになり、結果として良い循環がおこ
ります。
天然砥石の美しさに魅せられて手に入れるとき、その動機づけとして、研究結果などを持ちだし
て納得して手に入れるという、私みたいな人も中にはいるのではないでしょうか。
上の写真は私の使っている砥石の一部です。
すべて京都高雄周辺で採掘された砥石で、左から鳴滝砥石、素板、からす、内曇り、
黄板、一番右の小さい砥石は上が、黄板、下が素板です。
この砥石はよく使います。
このように形が不揃いの砥石というのは質が良くても比較的安く入手することが可能
です。
固定できるように台をつけて使っています。
小さな彫刻刀などを研ぐときには重宝します。
拡大
黄板
素板
見た目からして堅く見えますが、意外と柔らかい砥石です。
拡大
からす
石自体が硬いので初めて砥石を使われる人には向いていないです。
しかし、研ぎあげるととても良い刃をつけてくれます。
水を数滴たらし、彫刻刀を研いでいる最中です。
そうすると研ぎ汁が出てきます。
この研ぎ汁も水で流し捨てずに、そのまま研いでいきます。
汁も重要な役目を果たしています。