漆塗り作業の前に、実際に使わせていただくお茶
室の床の間に置いてみました。
ここでは床の間を一つのフレームととらえた場合、
香合がアンバランスではないかどうかなど制作段階
では気づかないところを、チェックします。
今回は、特に大きな違和感を感じなかったので、
漆塗りの作業を開始します。
まずは、下地漆という漆をつかいます。
筆を使わずに、綿でできた、布を使って、手で
拭いていきます。
手で拭くときはビニールを使います。
全体に薄く漆を拭きのばせたら一度目の作業は
これで完成です。
香合の制作5 香合の蓋と身の合わせ彫り
前回、香合の身の穴の大きさの紙を作り、その紙
を残して周りを彫り込んでいきました。
次に蓋が穴に入る部分の厚みをある程度削り落と
していきます。
このぐらいの状態でチョークを使います。
蓋をかぶせてチョークがついた部分を削り落とし、
そして蓋の穴に入るところの厚みを少しずつ削り
それを交互に繰り返していきます。
どちらかを進みすぎたりすると、後で深く彫りす
ぎたという事があるので、この段階では、小さな
彫りかすしかでないような、刀の運び方でおとし
ていきます。
大きな穴は見当がつくのですが、細かい筆さばきの
後の部分の穴は見当をつけるのがチョークでは難し
いのでもう一度、紙を当てて見当をつけていきます。
少しずつ入っていきました。
この段階からようやく、合わせていくのが楽しく
なります。
ここまでの作業は、チョークをつけて合わせて当
たった部分を削るという工程を何度も何度も繰り
返します。
早く彫って結果をみたいと焦って進めると、失敗
の元になります。
そういう時は作業をやめます。
そうすると次の日新たな気持ちで丁寧に望むこと
ができます。
あと少しを残して、蓋が入りました。
今度はもう少し細かく微調整をしていきます。
次に身の部分の香木が入る穴を彫りこんでいきます。
まず最初に〇字のサンプルをコピーして輪郭線をは
さみなどで切って、のりで木に貼り付けます。
もともとの字の形が少し細くて香木が入らないと
思いましたので少し字の幅を大きくしました。
きっちりと彫りこむ部分が決まりましたら少しず
つ彫り始めます。
すべての穴が浅く彫れましたら、今度は香木が入
るであろう深さまで彫りこみなす、
これで香合の身の部分の穴がだいたい彫り終え
ました。
次に蓋の部分をこの穴にすっぽりと収まるよう
に穴に合わせて彫り合せます。
下の図のようにチョークをつけて蓋をかぶせる
と蓋にチョークがつきます。
ついたチョークを地道に削っていくと少しずつ
蓋が出来上がります。
香合のデザインが決まりました。
カットしてしまうと後戻りができないのでもうこの
デザインで進むしかありません。
そのデザインとは円相です。
一筆で 〇を書いた字のことです。
私は、床の間などにこの一字で 〇 と書かれた字が
お軸にかけられている物を幾度か見た覚えがありま
した。
しかし、その時は漠然と見ていただけで特に気に留
めていませんでした。
まるい香合を作りたいと思っていましたので、この
円相がぴったりだと感じました。
作るうえで、機械では絶対に作れないもの、つまり
正円ではなくて少しゆがんだ丸い香合を作りたかっ
た。
そして蓋と本体が離れますが、そこも平にせずに若
干ねじったように作りたかったということもあり、
この〇はぴったりのような気がしました。
禅の世界では理解や説明を必要とせず、つまり見た
人の主観でどのようにも意味が変化して、様々なこ
とが推測ができるようです。
この円相も輪廻を表したものであったり、あるいは
〇は境目がなく、欠けることも、余ることもない、
お釈迦さんが悟られたことの一つに中道という言葉
がありますが、その中道に近いのかなあとと私なり
に理解させてもらったりします。
考えていくと禅問答のようにだんだんとわからない
深みにどんどんと、入っていってしまいそうなので、
この話題はこれで終わりとして、香合の制作を始
めたいと思います。
まずはコピー用紙にコンパスで正円を描いたら、
カットして木にあてがいながら、どの位置でカッ
トするかを決めて、のこぎりを使って切断します。
この木に描いた下線は以前書き込んだものでこの線
は無視してカットしています。
だいたい四角にカットできましたら、今度は身
と蓋の間にのこぎりを入れてカットします。
毎年香合を作らせていただいておりますが、今年はど
のようなデザインにしようかまだ迷っています。
先に材料の木を手元に置いて色々と考えていましたが、
頭の中では、これでいこうとイメージがついても次の
日には、また別のイメージを思い浮かべていたりして
気持ちがあっちこっちいきます。
去年の香合の制作は1月から作り始めましたが今年は
まだ手付かずの状態、焦るのもよくないので、手元
に木を置いて触れながら、イメージを固めていこう
と思います。
香合というのはお香を入れる蓋つきの容器です。
茶のお湯を沸かす炉にお香を入れますが、かすか
に香るように、じかに炭の火に触れずに少し離して
おきます。
そのお香を炉に入れる前は 、あらかじめ香合に入れ
ておきます。
香合の中には3個入れて、その内2個を炭の近くに落
として入れますので、お点前の種類にもよりますが、
一個だけ香合にいれておきます。
風炉と炉ではつかうお香の種類が違います。
11月~4月までの炉の時期には陶磁器の香合を用い
ます。
練香という黒くて弾力のあるお香ですが、それが漆
器などの器を傷めるため、漆器には用いません。
5月~10月までのお香は角板を薄くカットした、香
木を使います。
香合の素材も、唐木、竹製などの漆器の香合をこの
時期は用います。
また年中使える貝の香合などもあります。
このような条件から私は5月~10月までの、間に使わ
れる香合しか作ることができませんが今回作る香合は
5月の茶会につかいます。
香合を作るうえで、誰も作らないようなものを作って
いきたいのですが、あまりにも奇抜すぎるのも良くな
いので、そのあたりは難しいところですが、その分や
りがいもあります。
どの時代で使われても、いつでも新鮮な気持ちで使え
る、そういう香合を作れるように毎年色々と考えてい
ますがなかなか道のりは遠いですね。
続く