二張の和傘 6 ―王義之 蘭亭序―

 

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二張の和傘 6  -王義之 蘭亭序 -

書道に志のある人なら知っている方も、いらっしゃる

かもしれません。 行書の神様と称される王義之。 中で

も蘭亭で歌会の催しが行われる直前、その場の日時、景

色や空気感、集まった人々、など 即興で記録したもの

ですが、本来ならば、後日きっちりとした形で整理記

録していくものです。

 

しかし即興で書き記したその文字の美しさ高い芸術性、

は歴代皇帝が愛してやまない、中国の宝と なりました。

 

今や世界中で認められ、また、草書の神様として、日

本でも蘭亭序を手本に、多くの書道家が 愛用しており

ます。

 

最近では、王義之の書が日本で発見されたとして大い

に盛り上がりました。

しかし私は当時、それほど王義之について詳しく調べ

たこともなく、書道も習ってはいたのですが、 行書の

神様という程度にしか認識がありませんでした。

 

ご主人との会話の中、硯の話はひとまず、さておき、

自然と道具から、道具を使って書くこと について話が

移動しました。

ご主人の知人に、小学校か中学校か高校かわかりませ

んが、字が大変上手な生徒がいました。 先生から、将

来、書道家になると大成すると言われ、書家になりま

した。

 

もともと裕福な家庭に住んでいたので、書家になるこ

とで食うに困ることはありませんでした。

またそういう人は字にも余裕が現れるもの、どうして

も日々の生活に困っているような状態 ではそれが字に

現れてしまう。

何かを作り上げる人の心の状態は余裕があるに越した

ことはなく、やはり切羽詰ったような 状態ではなかな

か良いものを作りあげるのは難しい。

 

その書家は、かならず毎日、蘭亭序を一枚書きあがる

のが日課で、どんなに深酒をしても、書きあげていき

ます。

おそらく数千枚は書いていると思いますが、それでも、

王義之に及ばずの心境だったようです。

当時、日本でいう地方公務員としての王義之が親戚一

同、友人知人をまねいた歌会を代表して 取り仕切り、

お酒が入っていたのかどうか定かではありませんが、

即効で書いた記録が 1700年後の今に至るまでお手

本として、使われるなんてことおそらく王義之は思っ

てもみなかったと思います。

 

ご主人は最近まで日本は中国から沢山学んできました。

遣唐使船が行き来していた時代の話ですが、 なぜ日本

人が中国人より優れているという事を言ってしまうの

か、 唐の時代、日本人が中国の文明を吸収しようと努

力していた過去があり、また時の皇帝は実に寛大であり

ました。

それを忘れ日本人は中国人より優れていると言ってしま

う所に危険性と先進国としてあるまじき小さな了見を も

っていることの恥ずかしさを感じておられるようです。

 

まだまだ話しがつきませんが、そうこうしているうちに

時計の針がかなり進んでいたことに気づきました。

お礼を伝え帰路につきましたが途中、思い返してみると、

なんてゆったりとした時間の流れだったのだろうか、私

は居心地の良さにまた何時か お会いできないだろうか、

と図々しくも思った次第であります。

そういえば仕事の話を聞いていなかったのを、少し時間

がたってから気付きました。

                                                        -プロローグー 完

 

 

 

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