お顔の彫刻は最も難しい場所ではあるのですが、彫り方を文章で説明する難しさに直面しています。
一番良いのは何度も何度も彫り、数をこなすと上達します、と言うのが一番簡単なのですが、それでは説明にならないので、この状態で自分ならどうするかという事を思いながら書いてみます。
まずは、一休みします。
何でもそうなのかもしれませんが、なにか好きな事に熱中する事ってあると思います。
私の場合は現段階において弁財天を彫刻している最中は熱中しています。
どんな事でも熱中しているときは冷静な判断が出来ない場合があると思います。
頭が、怒りに満ちている時、悲しい時など、その時は非常に興奮していますが、冷静になると、あの時あんな事するんじゃなかったと後悔することなどあると思います。
熱中しているときも一緒で、非常にデリケートな彫刻の場合、熱中しているときに彫ってしまうと、失敗する事が多かったです。
それは木彫だからかもしれません。
粘土だとあとで、付け足したりするのが可能なのですが、木彫だと継ぎ足す事が出来ませんので、失敗しない事をこころがけるのですが、かといって失敗を恐れて、おそるおそる彫りすすめても、あまり良くありません。
やはり、冷静な心の状態のときに彫る人が最善だと思ったやり方を決めたのなら、失敗を恐れずに思い切って彫るのが一番早い上達方法かと思います。
それでも失敗するときは失敗します。
数で表すと、100体ぐらい顔を彫り込むと自分の 思い描いた顔が出来るのではないかと思います。
前置きが長くなりましたが、まずは冷静な心の状態のときに顔の位置を見ます。
お顔の高さが上の位置にあるのか下の位置にあるのかちょうど良い高さなのかを見ます。
お顔が高すぎると低くする事は難しいのですが、若干目の位置を低くする事はできます。
しかし鼻の位置を上に高くする事は可能ですが低くする事が出来ません。
目を下げすぎると大人の顔から子供の顔になります。
ですので私は鼻の位置を荒彫りからこの状態までわずかに低く下の位置にしています。
仕上げに近づくにつれ徐々に鼻の高さを上げて微調整します。
鼻の位置が決まると小鼻の位置が決まり鼻の穴のわずかなくぼみが見えてきます。
このわずかなくぼみは、彫り過ぎに注意します。
鼻が決まると目の高さが決まります。
それと同時に口の位置も決まります。
目は左目から少しずつ微調整しながら形を決めて左目に合わせて右目を調整します。
人間の目と同様に目には目玉の膨らみがあります。
しかし目玉の膨らみを気にしすぎると、そればかりが気になってしまうので、目玉の膨らみは心の隅にとどめながら自分なりの仏様の表情を思い描き彫刻をします。
人間の顔が元になって仏像のお顔が出来ているのですが、あまり人間の顔に意識が引っ張られると、人間っぽくなってありがたみがなくなる可能性があります。
仏像のお顔は人間の顔の中に風船をつめて、膨らませたようなほっぺたをしています。
そして赤ちゃんのように肌がぷるんとしています。
あまり、段差をつけすぎずにシンプルな表情ですが、しかし例えば人間のように目の横がわずかにへこんでいます。
このわずかなへこみを、強調しすぎずにわずかに表現するというのが仏像を形作るうえで重要な要素ではないだろうかと思います。
このわずかに人間の痕跡を残す彫刻は手の表現にも当てはまります。
手も赤ちゃんの手のように丸みや弾力を感じられるように彫ります。
手の場合、骨の出っ張りなどはありません。
シンプルすぎて、仏さんらしい手を作るのが非常に難しいです。
仏像の表現の難しさはこのシンプルな姿の中にわずかに人間の痕跡を残すところにあるのではないでしょうか。
しかも見ている人にはわからない程度に。
お顔が決まれば、全体を確認してみます。
合掌
目次
寄木造りの原型の琵琶を持つ弁財天を彫刻 1 四角い木から線を引く
寄木造りの原型の琵琶を持つ弁財天を彫刻 2 御顔の荒彫りと膠接着
寄木造りの原型 琵琶を持つ弁財天を彫刻3 御顔の荒彫りと全体の荒彫り開始
寄木造りの原型 琵琶を持つ弁財天を彫刻4 漠然とした全体のフォルム
寄木造りの制作行程 7 目安線を彫刻 彫り進め過ぎずに彫刻する
寄木造りの原型 制作行程 8 弁財天の彫刻 手足をぼんやりと彫り進めて全体を進める
寄木造りの原型の制作行程 弁財天の彫刻 10 下図線を基準に彫刻をすすめる
寄木造りの制作行程 弁財天の彫刻 11 衣紋線などの細かな表現